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慶安太平記けいあんたいへいき
才知に優れた由井正雪が幕府転覆を企て、丸橋忠弥ら多彩な人材を集めて計画を進めるが、仲間の口論がもとで発覚し一味が捕らえられる連続物。
連続物(何席にもわたって続く長い話)。全19席。系統は御記録物(大名家に伝わる記録や御家騒動。金襖物ともいう。)
あらすじ
駿河国の染物屋の子として生まれた由井正雪は、幼いころから才気に優れ、江戸に出て軍学者・楠木不伝に師事した後、その道場を乗っ取る。剣術や槍術も教え、門弟が千人規模に達するころには、幕府転覆という大きな野望を抱くようになる。
紀州公・徳川頼宣ら有力な大名とのつながりを探る一方、文武に通じた佐原重兵衛、槍の名手・丸橋忠弥、易や天文に明るい秦式部など、多方面の人材を集めて計画を練り上げていく。三代将軍家光の死を好機とみた正雪は、江戸の町を焼く実行部隊や京・大坂を押さえる一団まで手配りを済ませ、決行を決意する。
ところが、丸橋忠弥と奥村八郎右衛門の碁の勝負をめぐる諍いから、奥村が謀反の計画を父や兄に漏らしてしまう。松平伊豆守の手配りにより一味は各地で捕らえられ、発覚を悟った正雪は捕縛される前に自ら命を絶った。
各席
19席手元の本に題と筋が載っている席だけを並べています。席の分けかたと題は演者によって変わります。
- 1. 生い立ち〜紀州公出会い駿河の紺屋に生まれた正雪は、子どものころから武芸にも学問にも茶の湯にも通じ、諸芸にわたって人より秀でていた。大人になってからの旅先で紀州藩主・徳川頼宣と知り合うが仕官には至らず、大きな志を胸に江戸へ出ることを選ぶ。
- 2. 楠木不伝闇討ち江戸へ出た正雪は、榎町で軍学を教える楠木不伝に弟子入りし、その技量を見込まれて娘お重の婿にとまで望まれるようになる。ところがお重と門弟の村上が恋仲になったことに不伝が激怒して村上を破門にすると、正雪はひそかに村上をそそのかして師である不伝を手にかけさせ、まんまと道場の実権を握る。
- 3. 丸橋忠弥登場宝蔵院流の槍を得意とする丸橋忠弥は、武芸にも学問にも通じ門弟の数も多いと評判の由井正雪について耳にし、化けの皮をはがしてやろうと正雪を追い回し、正雪の知人である絵師の家で初めて対面する。
- 4. 忠弥・正雪の立ち合い丸橋忠弥と正雪はついに道場で対決する。忠弥は正雪の門弟二人を簡単に倒すが、正雪には付け入る隙が見当たらず、決め手となる一撃をついに繰り出せないまま、思わずその気迫に「参った」と叫んでしまう。
- 5. 秦式部正雪の道場は繁盛しているものの、世間からの信用はいまひとつ高まらない。そこで正雪は、秦式部の助けを借りて雨ごいに乗り出し、旱魃の続く江戸に雨を呼ぶと宣言、公儀に働きかけて大々的な祈祷を行い、実際に雨を降らせてみせる。
- 6. 戸村丹三郎柳生宗矩の家で下働きをする浪人・戸村丹三郎は、浅草寺で宗矩に絡んだ不良旗本を退けた褒美として勝負を挑むが、あっさりひねられる。正雪の甘言に乗った丹三郎は、宗矩と徳川家を倒したいと正雪の道場の門をたたく。
- 7. 宇都谷峠増上寺の怪力僧・伝達が京へ向かう道中、謎の男甚兵衛に誘われて宇都谷峠で紀州の御用飛脚を襲い、三千両を奪う場に居合わせる。松平伊豆守の領地・吉田へ逃げ、包囲網が迫ると地雷火で町を火の海にする。
- 8. 箱根の惨劇知恩院へ上納金2000両を納めた帰り、伝達は僧の戒めを破って酒と肉に手を出す。懐の200両を狙って寄ってきた護摩の灰や追いはぎを、その場で叩き殺してしまう。これを一部始終見ていた由井正雪が、伝達を一味に引き入れる。
- 9. 佐原重兵衛夜桜見物の晩、佐原重兵衛は槍を手に正雪へ襲いかかるが失敗する。偽名を使って田舎者を装い近づくもすぐに正体を見破られ、正雪に心を開いて後に片腕となり幕府転覆計画に加わる。
- 10. 牧野兵庫(上)砲術の名手・牧野兵庫は大病で死線をさまよった際に正雪に命を救われ、恩人である正雪に絶対的な信頼を寄せる。正雪の紹介で紀伊の徳川頼宣の前で砲術の技を披露し、見事な成功で仕官がかなう。
- 11. 牧野兵庫(下)紀伊の国元に赴いた牧野は、主君頼宣の命で淡島の大蛇退治に加わり、得意の砲術で手柄を立てて江戸家老にまで出世する。だが正雪に頼まれて頼宣の印判を盗み出し、あらためて正雪の一派に加わる。
- 12. 柴田三郎兵衛丸橋忠弥の義兄弟で北条流軍学指南の柴田三郎兵衛は、忠弥が正雪の道場に出入りすることを快く思っていなかった。正雪は一計を案じて柴田と対面し、その話に心を動かされた柴田は一派に加わる。
- 13. 加藤市右衛門徳川家によるお家取り潰しで浪人となった加藤市右衛門は、材木問屋の弟である弥五七と知り合う。弥五七は自身も徳川への恨みを抱く者だと明かし、正雪とともに幕府転覆を謀ろうと加藤を仲間に誘う。
- 14. 鉄誠道人願人坊主の鉄誠道人は異形の姿で知られる人物で、正雪から入れ知恵を受け、「すべての悪を引き受けて焼身自殺する。悪業を拭い去りたい者は免罪符を買い求めよ」と触れ回って十数万両を手にする。正雪はひそかに抜け道を用意しており、道人を焼き殺してその金を奪う。
- 15. 旗揚げ前夜幕府の目が向き始めたころ、正雪は老中筆頭の松平伊豆守信綱を討とうとするが、しくじる。慶安4年4月20日に三代将軍家光が没すると、機は熟したとして一味を集め、各地を任せる大将の名を読み上げる。その中に丸橋忠弥は入っていなかった。
- 16. 丸橋と伊豆守江戸城の堀端で、酔った様子を装った丸橋忠弥が石を投げ入れて堀の深さを測っている。登城の途中でこれを見た松平伊豆守が不審に思い忠弥に声をかけると、動揺した忠弥は泥酔したふりで帰宅する。
- 17. 奥村八郎右衛門の裏切り奥村八郎右衛門と丸橋忠弥は決起の前日に碁を打つが、「待った」を巡って大喧嘩になる。忠弥が碁笥を投げつけて奥村の額を割り、帰宅した奥村は父や兄に問い詰められて正雪の幕府転覆計画を漏らしてしまう。
- 18. 正雪の最期碁をめぐる奥村と丸橋の騒動をきっかけに謀反の企てを嗅ぎつけた松平伊豆守は、正雪一味を一斉に捕らえる手はずを整える。駿府の宿で挙兵の時を待っていた正雪の周りはたちまち六百人の捕り方に囲まれ、もはや逃げ場がないと悟った正雪は自らの腹を切って果てる。
- 19. 一味の最期決行の前夜になって謀反の全貌が知られてしまったため、駿府にいた首脳陣をはじめ江戸に火を放つ手はずだった者たち、京都・大坂の抑えを任された者たちまで、正雪一味の武芸者は一人残らず伊豆守の手の者に捕らえられ、いずれも厳しい刑罰を受けることになった。
成立と背景
松之丞は「宮本武蔵伝」全十七席の稽古を終えた後、師匠松鯉からこの演目を教わった。師匠の本棚には十席にまとめた台本と十九席の台本の二種類があり、松之丞は十九席の方を教わっている。
ほかの芸能でも演じられます
この演目は浪曲でも演じられています。同じ題材でも、 芸能によって筋の運びや読みどころが変わります。
- 浪曲「慶安太平記」
由井正雪・丸橋忠弥らによる慶安事件を扱う続き物です。浪曲では、僧・善達が東海道で護摩の灰と出会う「怪僧善達」がよく演じられます。
この演目を調べる・聴く
- 国立国会図書館サーチ
この演目の本・速記本・レコードの目録。誰が演じ、いつ出たものかが分かります。
- 歴史的音源(れきおん)
戦前を中心とした録音。同じ演目を誰が吹き込んだかが並びます。
- 歴史的音源(自宅で聴ける分だけ)
上の検索を、インターネット公開されている音源だけに絞ったものです。
講談は演者によって筋や読み方の細部が変わります。ここに書いたあらすじは一つの形で、 実際の高座とは違うことがあります。
出典
- 『講談入門』神田松之丞/編・文 長井好弘/写真 橘蓮二、河出書房新社、2018年
上の本で確認した事実をもとに、文章は寄席ミルが書き起こしたものです。本文の引き写しはしていません。

