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乳房榎ちぶさのえのき
別題: 重信殺し
絵師が弟子と自分の妻の密通によって命を落とし、死後もなお未完の天井画を仕上げる姿を見せる一席。演じられるのは重信殺しまでの前半部分がほとんど。
一席物(一話で完結する話)。系統は怪談物(幽霊や化け物が出る話。)
あらすじ
本所柳島の絵師・菱川重信は、女房のおきせ、息子の真与太郎と暮らしている。浪人の磯貝浪江が弟子入りしていたところに、近くの寺から天井画の依頼が重信に舞い込む。高田砂利場村にある大鏡山南蔵院の本堂天井へ龍を描いてほしいというものだった。
重信が南蔵院に泊まり込んで龍の絵を描いている間に、浪江とおきせは密通の関係を結ぶようになり、浪江にとって重信の存在が邪魔になっていく。浪江は南蔵院を訪ね、寺の下男である庄助を脅しつけ、重信を落合の蛍狩りに誘い出させたうえで、みずから重信を斬り殺す。
寺に戻った庄助は、重信がすでに帰って本堂で絵を仕上げていると聞かされる。明かりの灯る本堂を障子の穴から覗くと、確かに重信の姿がある。龍を描き上げて署名すると、重信はこちらを見て声をかけ、その瞬間に明かりが消えて庄助は倒れる。翌朝あらためて見ると絵は完成しており、落款の朱肉が濡れていた。
物語はここまでが序開きにあたり、後半では成長した息子の真与太郎が、父の仇である浪江を討つ筋書きへと続いていく。ただし実際に寄席や落語・講談の高座で演じられるのは、重信殺しまでの前半部分がほとんどであり、後半部分が演じられることは少ない。
成立と背景
後半(真与太郎による仇討ちと、演目名の由来となる木が登場する部分)が演じられないため、観客には題名の意味が伝わりにくいという。神田松之丞は後半部分をダイジェストの形で演じたこともある。
読み方の違い
同じ演目でも、演者によって細部が変わります。分かっている違いを並べています。
- 神田松鯉は、浪江とおきせが深い仲になる場面(おきせ口説き)を省いて演じるが、神田松之丞はこの場面を加えている。
ほかの芸能でも演じられます
この演目は落語でも演じられています。同じ題材でも、 芸能によって筋の運びや読みどころが変わります。
- 落語「怪談乳房榎」
絵師の妻と弟子の密通から始まり、殺された絵師の霊が我が子を守り敵討ちへと導く怪談。
この演目を調べる・聴く
- 国立国会図書館サーチ
この演目の本・速記本・レコードの目録。誰が演じ、いつ出たものかが分かります。
- 歴史的音源(れきおん)
戦前を中心とした録音。同じ演目を誰が吹き込んだかが並びます。
- 歴史的音源(自宅で聴ける分だけ)
上の検索を、インターネット公開されている音源だけに絞ったものです。
講談は演者によって筋や読み方の細部が変わります。ここに書いたあらすじは一つの形で、 実際の高座とは違うことがあります。
出典
- 『講談入門』神田松之丞/編・文 長井好弘/写真 橘蓮二、河出書房新社、2018年
上の本で確認した事実をもとに、文章は寄席ミルが書き起こしたものです。本文の引き写しはしていません。

