浮世床うきよどこ
髪結い床に集まった男たちのやりとりを、講釈の読み違え・将棋・居眠りの夢と場面を変えて見せる噺です。
あらすじ
江戸の髪結い床(床屋)は、若い衆が集まる場所でした。将棋盤や碁盤、貸本が置かれ、店は看板の絵柄で呼ばれます。この噺の舞台は「海老床」です。看板の海老が生きているか死んでいるかで男たちが言い争い、隠居が「床についているから患っている」という洒落で収めます。
隅で本を読んでいた男が、姉川の合戦で本多平八郎と真柄十郎左衛門が一騎討ちをする場面を読んでいると言い、皆にせがまれて読み聞かせを始めます。立て板に水と言った割に読み違えとこじつけが続き、一尺八寸の大太刀を刀の幅のことだと言い、刀に窓をあけたなどと勝手な説明を足します。「むかって」を「むかついて」と読んだので、周りは本気で介抱しようと騒ぎ出します。
将棋の場面では、先手をどちらが取るかを決めるところから話が進まず、王将を隠したり取られたと言い合ったりして対局になりません。駒を動かすたびに語呂合わせを言う「洒落将棋」も出てきます。
居眠りをしている半公を「ひとつ食わねえか」と起こすと、半公は女で疲れたと言い出します。芝居見物で年配の女に気に入られ、茶屋の座敷で酒をふるまわれ、隣の部屋で寝ていると女が布団に入ってきた、という話です。ところがその場面が、いま起こされた瞬間につながります。居眠りのあいだに見ていた夢だったと分かる形です。
最後に、亭主が勘定を払わずに帰った客がいると言い出します。痩せて印半纏を着た男で、近所の畳屋の職人だと分かります。
亭主が「それで、床を踏みに来たんだ」と言います。畳職人が仕上げに畳を足で踏み慣らす仕事と、勘定を踏み倒したことをかけた地口です。
成立と背景
髪結い床を舞台にした噺には、ほかに「不精床」「ぞろぞろ」「片側町」があります。
小咄をつないだ形なので、途中の場面から始めたり切り上げたりできます。そのため寄席で重宝される噺とされます。
将棋の場面には、対局中の二人のキセルを入れ替えるいたずらの演出がありました。ことばが少なく動きで見せる演出のため録音や活字に残らず、今は演じる人がいないとみられます。
演じてきた人
五代目古今亭志ん生の表現を土台に、聴き手への予備知識の説明を加えた三代目古今亭志ん朝の口演が知られます。
本によって違うところ
落語は演者や本によって細部が変わります。読んだ本の記述が食い違ったところは、どちらかに決めずに並べています。
- 成立の見方。『古典落語(選)』は原話を安永2年(1773年)刊の笑話本『芳野山』の「髪結床」とし、もとは上方落語で初代柳家小せんが東京に移したとしています。『落語百選 春』は、式亭三馬の『浮世床』(文化8年=1811年刊)の話芸版だとしています。
- 講釈を読む男の呼び名。『落語百選 春』は銀さん、『古典落語(続々)』『古典落語(選)』は留さんです。『落語名作200席 上』は名前を書いていません。
この演目を調べる・聴く
- 国立国会図書館サーチ
この演目の本・速記本・レコードの目録。誰が演じ、いつ出たものかが分かります。
- 歴史的音源(れきおん)
戦前を中心とした録音。同じ演目を誰が吹き込んだかが並びます。
- 歴史的音源(自宅で聴ける分だけ)
上の検索を、インターネット公開されている音源だけに絞ったものです。
落語は演者によって筋やサゲの細部が変わります。ここに書いたあらすじは一つの形で、 実際の高座とは違うことがあります。
出典
- 『落語名作200席 上(角川ソフィア文庫)』京須偕充、KADOKAWA、2014年
- 『落語百選 春(ちくま文庫)』麻生芳伸 編、筑摩書房、2004年
- 『古典落語(続々)』興津要 編、講談社、1973年
- 『古典落語(選)』興津要 編、講談社、2015年
上の本で確認した事実をもとに、文章は寄席ミルが書き起こしたものです。本文の引き写しはしていません。

