道灌どうかん
隠居が太田道灌と山吹の歌の話をして聞かせ、八つぁんがそれを借り物を断る口実に使おうとします。
あらすじ
隠居のところへ八つぁんが遊びに来ます。「用でもあって来たのか」「用がありゃあ来やしねえ」というやりとりから始まり、隠居は茶と羊羹を出します。話は部屋にある衝立の絵に移り、三方が原の戦いの絵の説明が始まります。
隠居は徳川方と武田方の四天王、源頼朝や義経の四天王の名を挙げますが、八つぁんは東海道線の四天王だ、貝の四天王だと的の外れた冗談を返します。
次に、狩装束の武士と、盆に山吹の花を載せて差し出す女が描かれた絵の説明になります。文武の道に励んだ太田持資(のちの道灌)が田端の里へ鷹狩りに出たとき、急な村雨に遭い、雨具を借りようとあばら家を訪ねます。出てきた若い女は顔を赤らめ、山吹の枝を一本手折って盆に載せ、「おはずかしゅうございます」と差し出します。
持資には意味が分かりません。家来の豊島刑部が、兼明親王の歌「七重八重花は咲けども山吹の実のひとつだになきぞ悲しき」を踏まえ、実(み)と蓑(みの)をかけて、お貸しする蓑がございませんという意味だと解きます。持資は自分の無学を恥じて城に帰り、その後は和歌を学んで、入道して道灌と名乗りました。
八つぁんは、雨具や下駄を借りに来ては返さない友人がいると言い出し、断るのに使いたいと言って、隠居にその歌を仮名で書いてもらいます。帰る道中、雨に降られて走る人を見て「子守りの道灌」「豆腐屋の道灌」と洒落て眺め、家に着くと引き窓が開いたままで雨が降り込んでいたので、うちも道灌になってしまったとぼやきます。
そこへ噂の友人が来て、提灯を貸してくれと頼みます。用意した歌は雨具を断るためのものなので、八つぁんは「雨具を貸してくれと言え」としつこく言い直させ、友人が渋々そう言ったところで歌を読み上げます。ところが文言をうろ覚えのまま読み違え、意味の通らない文句になってしまいます。
八つぁんが「この歌も知らないようでは歌道に暗いな」とからかうと、友人は「角が暗いから提灯を借りに来たんだ」と返します。歌道に暗いと、道が暗いをかけた形です。
成立と背景
隠居と八つぁんのやりとりが楽しめる噺です。いわゆる「耳学問」の型を作ったのは、三代目三遊亭金馬の機知とくすぐりの応酬でした。太田道灌の鷹狩りの逸話や、四天王・三傑・七本槍の名をこの落語で知ったという声もあります。
似た運びの噺に「高野違い」「一目上がり」があります。この噺は上方から移したものではなく、江戸の落語です。原話や成立の年は分かっていません。
演じてきた人
三代目三遊亭金馬の口演が代表的とされます。山吹の花を「レエスカレー」、村雨を英語だから分からないと聞き違えさせるくすぐりは、金馬のものです。
本によって違うところ
落語は演者や本によって細部が変わります。読んだ本の記述が食い違ったところは、どちらかに決めずに並べています。
- 隠居が挟む逸話の量。『落語百選 夏』は四天王の話のあとに、加藤清正と賤が岳の七本槍、児島高徳が桜の幹に漢詩を刻んだ話、小野小町と深草少将の百夜通いの話まで続きます。『古典落語(下)』は四天王の話のあと、すぐ道灌の絵の説明に移ります。
- 『落語名作200席 下』の目次にもこの演目がありますが、手元のテキストでは該当ページを取り出せなかったため、上の2冊にもとづいて書いています。
この演目を調べる・聴く
- 国立国会図書館サーチ
この演目の本・速記本・レコードの目録。誰が演じ、いつ出たものかが分かります。
- 歴史的音源(れきおん)
戦前を中心とした録音。同じ演目を誰が吹き込んだかが並びます。
- 歴史的音源(自宅で聴ける分だけ)
上の検索を、インターネット公開されている音源だけに絞ったものです。
落語は演者によって筋やサゲの細部が変わります。ここに書いたあらすじは一つの形で、 実際の高座とは違うことがあります。
出典
- 『落語百選 夏(ちくま文庫)』麻生芳伸 編、筑摩書房、2004年
- 『古典落語(下)』興津要 編、講談社、1972年
上の本で確認した事実をもとに、文章は寄席ミルが書き起こしたものです。本文の引き写しはしていません。

