転失気てんしき
医者に「てんしき」を尋ねられた和尚が、意味を知らないまま知ったかぶりをします。小僧が仕返しに嘘を教えます。
あらすじ
寺の和尚が体を悪くして医者の診察を受けます。医者が「てんしきはおありか」と尋ねると、和尚は言葉の意味を知らないのに、負け惜しみから「ございません」と答えてしまいます。
医者が帰ったあと、和尚はあの答えが命取りになるのではと気になりますが、今から聞き直すこともできません。小僧を呼んで「てんしきを存じておるか」と尋ね、知らないと答えると、人に聞いて自分で覚えるようにと言って、門前の花屋に尋ねさせます。花屋も知らないくせに知ったかぶりをして、あいまいな言い訳ではぐらかします。
小僧は薬を受け取りに行ったついでに医者本人に尋ね、てんしきとは医書『傷寒論』にある言葉で、気を転じて失うと書き、俗にいうおならのことだと教わります。和尚も花屋も知らなかったと分かった小僧は、和尚には「てんしきとはお盃のことでした」と嘘を教えます。
和尚はこれを真に受け、盃のことだと思い込みます。翌日また医者が来ると、和尚は「実はてんしきの持ち合わせがございました」と言って、小僧に持ってこさせた桐の箱の盃を得意げに見せます。医者が「当方でてんしきとは放屁のことだが、寺方では盃のことか」と尋ね、思い違いが露見します。
小僧にだまされたと悟った和尚は、その盃を重ねて酒をいただくとおならが出る、という言い訳でその場を取り繕います。
成立と背景
てんしきという語は医書『傷寒論』にあり、気を転じて失うと書いて、俗におならのことを指します。この説明は、医者のせりふとして出てきます。原話や成立の年は分かっていません。
前座や二ツ目の若手がよく演じる噺で、明るく素直に演じてこそおもしろい噺とされます。花屋の前に隠居のところへ聞きに行き、そこでも言い逃れをされるくだりを入れるほうが、丁寧な演出とされます。
本によって違うところ
落語は演者や本によって細部が変わります。読んだ本の記述が食い違ったところは、どちらかに決めずに並べています。
- 花屋の言い逃れ。『落語名作200席 下』は「あったが味噌汁の実にして食べてしまった」、『古典落語(上)』は「ねずみが棚から落として壊してしまった」です。
- 小僧の名。『落語名作200席 下』は名前を出さず、『古典落語(上)』は珍念と呼ばれます。
- 『古典落語(上)』には、医者が小僧に「知らないことを聞くのは恥ではない」と言って直接教える場面があります。
この演目を調べる・聴く
- 国立国会図書館サーチ
この演目の本・速記本・レコードの目録。誰が演じ、いつ出たものかが分かります。
- 歴史的音源(れきおん)
戦前を中心とした録音。同じ演目を誰が吹き込んだかが並びます。
- 歴史的音源(自宅で聴ける分だけ)
上の検索を、インターネット公開されている音源だけに絞ったものです。
落語は演者によって筋やサゲの細部が変わります。ここに書いたあらすじは一つの形で、 実際の高座とは違うことがあります。
出典
- 『落語名作200席 下(角川ソフィア文庫)』京須偕充、KADOKAWA、2014年
- 『古典落語(上)』興津要 編、講談社、1972年
上の本で確認した事実をもとに、文章は寄席ミルが書き起こしたものです。本文の引き写しはしていません。

