野狐三次のぎつねさんじ
世話物浪曲の書き下ろし筒井伊賀守野狐三次江戸浅草大坂捨て子と実の親親孝行敵討ち刺青纏木っ端関東節続き物
捨て子の三次が火消しの纏持ちになり、実父を探して仇を討つまでを描く続き物です。初代東家浦太郎の代表作です。
続き物(何席にも分かれて語られる長い話)。系統は世話物。
あらすじ
子のない大工の磯五郎夫婦が浅草観音で拾った赤ん坊が三次です。12歳のとき、磯五郎が博打の借金をつくって失踪し、残された母のつねが病に伏したため、三次は木っ端(普請場で出る鉋屑)を集めて燃料として売り、母を助けます。得意先の親方からもらった羊羹をその場で食べずに持ち帰るのは、母が苦い薬を飲んだあとの口直しにするためでした。
成長した三次は火消しの纏持ちになります。刺青に選んだ絵柄は、浅草観音に捨てられていたときの産着と同じ秋草に親子狐。実の親がこれを見て名乗り出てくれるかもしれないと考えたためです。この刺青が仇名になり「野狐三次」と呼ばれるようになります。
磯五郎が大坂にいるという噂を聞いて探しに行きますが見つからず、大店の娘お糸に想われます。お糸には親の決めた許婿がいたため、三次は世話になっている尾張屋に迷惑をかけまいと諦めて江戸へ戻ります。お糸は三次を追って家出し、駿河の宇都谷峠で磯五郎と出会って一緒に江戸へ向かいますが、箱根山で悪党の大綱加賀次に磯五郎は殺され、お糸は谷へ落とされます。江戸に戻った三次は回向院の相撲で大綱加賀次を尾行する女乞食を捕らえ、それがお糸だと知ります。事情を知った三次は大綱加賀次を討って南町奉行所に自訴し、そこで南町奉行・筒井伊賀守が実の父だったことがわかります。
主な一席
2席木っ端売り
捨て子の三次が、育ての親のために木っ端を売って親孝行をする冒頭の一席です。
成立と背景
師匠の東家楽浦が「野口甫堂」のペンネームで書いた台本によるネタです。楽浦は初代東家浦太郎の胴声を活かせる演目としてこれを勧めました。
江戸時代の刺青は火消しや船頭など堅気の仕事の人々が入れるもので、歌川国芳が描いた『水滸伝』の豪傑の絵柄が流行したことが背景にあると『浪曲論』は説明しています。
演じてきた人
初代東家浦太郎はこの演目でスターになり、「木っ端売り」「宇都谷峠」を中心に演じました。二代目東家浦太郎は浪曲化されている部分をすべて演じています。浦太郎門下の東家一太郎が、妻の東家美を相三味線に受け継いでいます。
この演目を調べる・聴く
- 国立国会図書館サーチ
この演目の本・速記本・レコードの目録。誰が演じ、いつ出たものかが分かります。
- 歴史的音源(れきおん)
戦前を中心とした録音。同じ演目を誰が吹き込んだかが並びます。
- 歴史的音源(自宅で聴ける分だけ)
上の検索を、インターネット公開されている音源だけに絞ったものです。
- 文化デジタルライブラリー(この演目の公演記録)
国立劇場・国立演芸場などでの上演記録です。いつ・どこで・誰が演じたかが分かります。
浪曲は演者によって筋や節の細部が変わります。ここに書いたあらすじは一つの形で、 実際の高座とは違うことがあります。
出典
- 浪曲論[増補改訂版]/稲田和浩(彩流社・2022年)
上の本に書かれている事実をもとに、文章は書き起こしたものです。本の文章は転載していません。

