狸賽たぬさい
別題: たぬき
助けた子狸が恩返しに来ます。博奕好きの男は、狸にサイコロへ化けてもらいます。
あらすじ
墓参りの帰りの男が、子どもたちにいじめられている子狸を見つけ、小銭を渡して助けてやります。男は独り暮らしの博奕好きで、近ごろは金を使い果たしています。
その夜、戸をたたく音がします。名乗る声がはっきりせず戸を開けても誰もいませんが、助けた子狸が男の股をくぐって家に入り込んでいました。子狸は恩返しに来たと言います。穴に帰って話すと、親狸が腹を叩いて喜び、恩返しをしないやつは人間も同様だと言って行かせたのだそうです。
子狸はまず老人に化けて男のそばに置いてもらい、翌朝は掃除も炊事もこなします。米も金もないのに、古い葉書を紙幣に見せかけて食料を買い、釣り銭まで持ち帰ります。男はこれを見て、狸に五円札へ化けさせ、借金の返済に使います。紙幣にされた狸は借金取りに透かして見られ、蟇口に押し込まれた末に食い破って逃げ、中の紙幣を数枚くわえて帰ってきます。
男は狸に、賭場で使うサイコロに化けてくれと頼みます。狸はサイコロを知らないので、向かい合う目の和が七になること、大きさや重さ、二の目は肩から斜めに並べることなどを細かく教わります。狸は自分の体で目を表すことにして、一は逆立ちして尻を見せる、二は目玉を出す、と決めます。賭場で男が声に出して数を言ったらその目を出す、という合図の約束もします。
賭場はその日、誰が胴を取っても負ける日で、引き受ける者がいませんでした。男は名乗りを上げて胴を取り、縁起が悪いからと言って自分の持ち込んだサイコロを使います。調べられても異常は見つかりません。まだ一度も出ていない一に全額を賭け、合図して一を出させて大勝ちし、続けて二も出して勝ちます。
周りは、男が口にした目が必ず出ることを不審に思い、目を声に出すことを禁じます。手を封じられた男は、次の五を伝えるために「加賀様の紋、梅鉢だ、天神様だ」と口上のように唱えて合図します。
壺皿を開けると、狸は五の目ではなく、冠をかぶった天神様の姿に化けて座っていました。
成立と背景
『狸の賽』を略して『狸賽』と呼びます。狸の噺には、紙幣に化ける『狸の札』、祝いの鯉に化ける『狸の鯉』、茶釜に化ける『狸の釜』があります。いま主に演じられるのは賽と札で、続けて演じるときは題をただ『たぬき』とすることが多くなっています。
この形は、『狸の札』と『狸賽』をつなげたものです。動物の恩返しの民話に近い筋ながら、博奕場のサイコロになるところが落語らしいとされます。狸が出てくる噺には『権兵衛狸』『化物使い』、犬なら『元犬』、狐なら『王子の狐』があります。
演じてきた人
五代目柳家小さんと三代目古今亭志ん朝が演じてきました。
本によって違うところ
落語は演者や本によって細部が変わります。読んだ本の記述が食い違ったところは、どちらかに決めずに並べています。
- 子狸が捕まっていた様子。『落語名作200席 下』は罠にかかっていたとし、『落語百選 夏』は子どもたちに棒でたたかれ足で蹴られていたとし、『古典落語(続々々)』は縄で縛られていて、男が値切り交渉をして助けるとしています。
- 老人や紙幣に化ける前半の場面は『落語百選 夏』『古典落語(続々々)』にあり、『落語名作200席 下』のプロットには入っていません(恩返しの申し出からすぐサイコロの話になります)。
- 蟇口から持ち帰った紙幣。『落語百選 夏』は五円札三枚、『古典落語(続々々)』は一円札三枚です。
- サゲで狸が化けた姿。『落語名作200席 下』は冠をかぶり笏を持った姿とし、『落語百選 夏』『古典落語(続々々)』は冠をかぶって束帯で座った姿としています。
この演目を調べる・聴く
- 国立国会図書館サーチ
この演目の本・速記本・レコードの目録。誰が演じ、いつ出たものかが分かります。
- 歴史的音源(れきおん)
戦前を中心とした録音。同じ演目を誰が吹き込んだかが並びます。
- 歴史的音源(自宅で聴ける分だけ)
上の検索を、インターネット公開されている音源だけに絞ったものです。
落語は演者によって筋やサゲの細部が変わります。ここに書いたあらすじは一つの形で、 実際の高座とは違うことがあります。
出典
- 『落語名作200席 下(角川ソフィア文庫)』京須偕充、KADOKAWA、2014年
- 『落語百選 夏(ちくま文庫)』麻生芳伸 編、筑摩書房、2004年
- 『古典落語(続々々)』興津要 編、講談社、1973年
上の本で確認した事実をもとに、文章は寄席ミルが書き起こしたものです。本文の引き写しはしていません。

