粗忽の釘そこつのくぎ
別題: 宿替え(上方)、我忘れ、粗忽の引越し
引っ越し先で箒を掛ける釘を打った粗忽な大工が、壁を突き抜いた釘を謝りに隣へ行きます。
あらすじ
そそっかしい大工が引っ越しの日、大きな荷物を背負って新居へ向かいますが、犬の喧嘩や子どもの相撲に見とれて道に迷います。豆腐屋を目印に探しても見つからず、よその家に入り、しまいには引っ越す前の家に戻ってしまい、家主に連れられて夕方にやっとたどり着きます。
女房から、箒を掛ける釘を打ってほしい、掛けやすいように長いものを、と頼まれた亭主は、いちばん長い瓦釘を選び、柱と間違えて壁に打ち込みます。強く叩いたので釘の頭が壁にめり込みます。
女房は、壁が薄いので釘の先が隣の家に突き出て道具を傷つけたかもしれないと心配し、亭主に謝りに行かせます。亭主は最初、向かいの家に入ってしまい、そちらではないと説明されて出直します。
本当の隣家では世間話や自分の馴れそめの話が長く続き、なかなか用件を切り出せません。ようやく釘の話をすると、隣の主人が仏壇を見せます。阿弥陀様の頭の上から長い釘の先が突き出ていました。
隣家で家族を聞かれた亭主は、女房と七十八になる親父の三人だと答え、三年前から寝ている親父を二階に寝かせたまま忘れてきたことに気づきます。自分の親を忘れる人がいるかと驚かれると、酒を飲むと時々われを忘れると答えます。
成立と背景
原話は、文政13年刊の笑話本『噺栗毛』の「田舎も粋」です。
上方では「宿替え」の題で演じられます。
演じてきた人
上方で「宿がえ」と呼ばれるこの噺は、二代目桂枝雀の口演が知られます。
本によって違うところ
落語は演者や本によって細部が変わります。読んだ本の記述が食い違ったところは、どちらかに決めずに並べています。
- 『はじめて読む 古典落語百選』は仏壇の釘が見つかる場面までで、親父を忘れてきたくだりには触れていません(あらすじの形なので省いたとも読めます)。サゲは『落語百選 秋』の本文にもとづいて書いています。
この演目を調べる・聴く
- 国立国会図書館サーチ
この演目の本・速記本・レコードの目録。誰が演じ、いつ出たものかが分かります。
- 歴史的音源(れきおん)
戦前を中心とした録音。同じ演目を誰が吹き込んだかが並びます。
- 歴史的音源(自宅で聴ける分だけ)
上の検索を、インターネット公開されている音源だけに絞ったものです。
落語は演者によって筋やサゲの細部が変わります。ここに書いたあらすじは一つの形で、 実際の高座とは違うことがあります。
出典
- 『落語百選 秋(ちくま文庫)』麻生芳伸 編、筑摩書房、2004年
- 『はじめて読む 古典落語百選』林家たい平、リベラル社、2021年
上の本で確認した事実をもとに、文章は寄席ミルが書き起こしたものです。本文の引き写しはしていません。

