猫久ねこきゅう
おとなしい久六が脇差を持って飛び出します。それを見た大工が、侍の説教を受け売りします。
あらすじ
八百屋の久六は柔和な性格から「猫久」と呼ばれ、近所では「久」が取れて「猫」と呼ばれるほどです。ある日、その猫久が血相を変えて帰ってきて、相手を殺すから脇差を出せと女房に迫ります。
女房は止めるどころか、簞笥から脇差を出し、神棚の前に座って三度押し戴いてから黙って夫に渡します。猫久はそれを持って飛び出していきます。
向かいの大工がこれを見て興奮して女房に話しますが、女房は驚かず、話がかみ合いません。大工は床屋へ行き、居合わせた侍にこの一件を話します。侍は、脇差を三度押し戴いて渡した猫久の女房の行いを貞女・孝女・烈女・賢女だと称え、それを見て笑った大工を、おかしいと申して笑う貴様がおかしいぞとたしなめて長い説教をします。自分にも二十五になる息子がいて、いずれそういう女を娶らせたいとも語ります。
大工は話をろくに理解しないまま帰り、女房相手に同じ説教を再現しようとしますが、言葉を取り違えて支離滅裂になります。自分にも二十五になる倅がいると受け売りを言うと、女房から、おまえさんは二十七なのに二十五の倅がいるわけがないと突っ込まれます。
大工は女房に、何か持ってこいと言ったら猫久の女房のように押し戴いて持ってこられるかと挑発します。女房はできると答えます。その話をしている間に、台所のイワシを猫がくわえて逃げ出し、大工は慌てて何か持ってこいと命じます。
女房は擂粉木を手に神棚の前に座り、丁寧に三度押し戴いてから渡そうとします。その間に猫はイワシをくわえて逃げてしまい、女房は「待っといでよ、あたしゃ戴いてるところだ」と言います。
成立と背景
枕では、猫は三年飼われても恩を忘れるとされ、三日飼われても恩を忘れないとされる犬と対に語られること、おとなしい人を猫のようだと言われて腹を立てる人は少ないが、犬のようだと言われると喧嘩になることが語られます。
人の言動をそのまま真似てまぜっ返すこの型は、「青菜」「道灌」「ふだんの袴」と同じ筋立てです。二代目小さん(禽語楼)以来の、柳家のお家芸とされます。
演じてきた人
五代目柳家小さんの口演が知られ、長屋物のおかしみは類を見ないとされます。六代目春風亭柳橋については、大工に「もそっとこれへ」と言われた女房が「よそって」と勘違いして「おまんまかい」と聞き返す場面が挙げられます。
本によって違うところ
落語は演者や本によって細部が変わります。読んだ本の記述が食い違ったところは、どちらかに決めずに並べています。
- 床屋で侍から説教される場面は『落語名作200席 下』『古典落語(上)』にありますが、『落語百選 春』の本文には無く、大工が説教を聞いてきたあとで女房に語る場面から始まります。
この演目を調べる・聴く
- 国立国会図書館サーチ
この演目の本・速記本・レコードの目録。誰が演じ、いつ出たものかが分かります。
- 歴史的音源(れきおん)
戦前を中心とした録音。同じ演目を誰が吹き込んだかが並びます。
- 歴史的音源(自宅で聴ける分だけ)
上の検索を、インターネット公開されている音源だけに絞ったものです。
落語は演者によって筋やサゲの細部が変わります。ここに書いたあらすじは一つの形で、 実際の高座とは違うことがあります。
出典
- 『落語名作200席 下(角川ソフィア文庫)』京須偕充、KADOKAWA、2014年
- 『古典落語(上)』興津要 編、講談社、1972年
- 『落語百選 春(ちくま文庫)』麻生芳伸 編、筑摩書房、2004年
上の本で確認した事実をもとに、文章は寄席ミルが書き起こしたものです。本文の引き写しはしていません。

