ねずみねずみ
仙台で身を落とした宿屋の親子のために、左甚五郎がねずみを彫ります。
あらすじ
旅の途中で仙台へ入った左甚五郎は、十二歳の少年に声をかけられ、その家である小さな宿屋「鼠屋」に泊まります。
宿の主人・卯兵衛は、もとは仙台一の旅籠「虎屋」の主人だったと身の上を話します。妻に先立たれ、女中頭のお紺を後添えにしましたが、七夕の晩に二階の客の喧嘩を止めに入って階段から突き落とされ、腰が立たなくなりました。
卯兵衛が寝込んでいる間に、番頭の丑造とお紺が結託して印形を盗み、譲り渡しの証文を作らせて、卯兵衛と息子の卯之吉を虎屋から追い出して乗っ取ってしまいました。追い出された親子は、もとは虎屋の物置だった二間の建物で暮らし、息子の発案で自分たちも旅人を泊める宿を始め、「鼠屋」と名付けたのでした。
話に心を動かされた甚五郎は、一晩かけて端切れの木でねずみを彫り上げ、盥に入れて竹網をかけ、甚五郎作の福鼠、ご覧になった方は鼠屋へお泊まりくださいという但し書きを添えて店先に置きます。彫られたねずみが動くという評判が仙台中に広まり、鼠屋は大繁盛する一方、乗っ取られた虎屋には客が来なくなります。
怒った丑造は、伊達家お抱えの彫物師で、かつて甚五郎と腕比べをして敗れた飯田丹下に頼み、虎屋の二階の手すりに大きな虎の彫物を据えさせます。虎がねずみを睨みつける位置に置かれると、それまで動いていたねずみがぴたりと動かなくなってしまいます。知らせを受けた甚五郎は仙台へ乗り込みます。
甚五郎がねずみに「魂を込めて彫ったつもりだが、お前はあの虎がそんなに怖いのか」と語りかけると、ねずみが「あれ、虎ですか。あたしは猫かと思いました」と答えます。
成立と背景
左甚五郎を実名のまま落語の登場人物にした噺の一つで、ほかに「竹の水仙」「三井の大黒」があります。
三代目桂三木助が、浪曲師・広沢菊春の口演を改作して落語に仕立てた比較的新しい作品で、舞台が仙台である点も珍しいとされます。
演じてきた人
三代目桂三木助が浪曲を取材してこの噺を落語に仕立てました。
本によって違うところ
落語は演者や本によって細部が変わります。読んだ本の記述が食い違ったところは、どちらかに決めずに並べています。
- 『落語百選 秋』は、甚五郎が飛騨の生まれで十二歳で弟子入りし、京で「竹の水仙」を作り、江戸で「三井の大黒」を彫って日光東照宮の陽明門を造ったという来歴を枕に置いています。
- 『落語名作200席 下』の目次にもこの演目がありますが、手元のテキストでは本文の該当ページを取り出せなかったため、上の2冊にもとづいて書いています。
この演目を調べる・聴く
- 国立国会図書館サーチ
この演目の本・速記本・レコードの目録。誰が演じ、いつ出たものかが分かります。
- 歴史的音源(れきおん)
戦前を中心とした録音。同じ演目を誰が吹き込んだかが並びます。
- 歴史的音源(自宅で聴ける分だけ)
上の検索を、インターネット公開されている音源だけに絞ったものです。
落語は演者によって筋やサゲの細部が変わります。ここに書いたあらすじは一つの形で、 実際の高座とは違うことがあります。
出典
- 『落語百選 秋(ちくま文庫)』麻生芳伸 編、筑摩書房、2004年
- 『はじめて読む 古典落語百選』林家たい平、リベラル社、2021年
上の本で確認した事実をもとに、文章は寄席ミルが書き起こしたものです。本文の引き写しはしていません。

