西京土産さいきょうみやげ
買った芸妓の絵姿を女房のように拝む男が、絵が消えて騒ぐ話。
あらすじ
元は士族だった作蔵は、家財をすっかり使い果たし、いまは母と二人、屑屋を営んで暮らしを立てていました。いずれは道具屋にでもなろうと考え、西京から奈良にかけて古い品を仕入れて回っています。
仕入れた品の中に、祇園の芸妓を描いた一幅の画像がありました。あまりによく描けていたので、二十五歳になる作蔵は、母が嫁取りを勧めるのもそっちのけで、この画像を女房のように思い、朝夕の飯や茶を供えては拝むようになります。
すると画像がすうっと軸から抜け出し、「朝晩よく拝んでくれてうれしい、あんたのお家はんにして、かわいがっておくれやす」と話しかけてきました。飯も食べずに立ち働く、たいそうな別嬪でした。
やがてこの様子が母親に知れ、「嫁をもらえと言うのを聞き入れず、母をないがしろにするとは何事か」と叱られてしまいます。作蔵はやむなく、西京で買った画像が抜け出して家事をしてくれているのだと打ち明けました。母もこれを承知し、以来、親子水入らずで暮らすようになります。
隣に住むひとり者の熊さんは、隣家の様子が気になって仕方がありません。壁に穴を開けてのぞいてみると、作蔵が女と暮らしているのが見えたので、「屑屋のくせに、どこから女を連れてきたんだ」とくやしがり、作蔵のところへ掛け合いにやってきました。
のぞかれてしまってはしかたなく、作蔵は画像が抜け出した一部始終を話して聞かせます。感心した熊さんは「屑屋とはいい商売だ、おれも今日から屑屋になろう」と、作蔵から籠を借り、呼び声まで教わって、抜け出しそうな絵を探しに出かけました。
そのうち熊さんは、深川の仮宅時代の花魁を描いた掛け軸を買い求め、一心に拝み始めます。絵師の腕がよかったのか、この願いも通じて、花魁がやはり軸から抜け出してきました。ただし「あんたとは添い遂げたいが、さんざん客を取って体が疲れているから、体を使うのはいやだ。朝もいつまでも寝ているよ」と告げられ、隣とは勝手が違います。
それでも熊さんは、朝は自分が先に起きて釜をたきつけ、握り飯をこしらえて仕事に出かけました。ある日帰ってみると、花魁の姿が消えています。方々探しても見つからず、大家に占ってもらうと「清風」の卦が出ました。「神隠しにあったんだろう」と大家が言うと、熊さんはこう答えました。「いえ、実は柱隠しでございます」
成立と背景
「応挙の幽霊」と「野ざらし」を組み合わせたような筋立ての噺です。非常にめずらしい演目で、雑誌百花園に円遊の速記が載っている以外に記録がなく、実際に演じた人はほとんどいないとされています。
神隠しとは、子供などが急に行方知れずになることをいい、天狗の羽うちわによる仕業だと俗に言われていました。この噺のサゲにある「清風」の卦は、この言い伝えにかけたものです。
この演目を調べる・聴く
- 国立国会図書館サーチ
この演目の本・速記本・レコードの目録。誰が演じ、いつ出たものかが分かります。
- 歴史的音源(れきおん)
戦前を中心とした録音。同じ演目を誰が吹き込んだかが並びます。
- 歴史的音源(自宅で聴ける分だけ)
上の検索を、インターネット公開されている音源だけに絞ったものです。
落語は演者によって筋やサゲの細部が変わります。ここに書いたあらすじは一つの形で、 実際の高座とは違うことがあります。
出典
- 『増補 落語事典』東大落語会 編、青蛙房、1979年
上の本で確認した事実をもとに、文章は寄席ミルが書き起こしたものです。本文の引き写しはしていません。

